
拙著『なぜさんたんげん』こと『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(NHK出版新書)は,6月10日の発売以来,読者・リスナーの皆さんに支えられて歩んできました.発売直後から呼びかけてきた企画の1つが,「書店で本書を見かけたら,ぜひ目撃情報をお寄せください」という「なぜさんたんげん目撃マップ」です.この3ヶ月間,Voicy heldio ではほぼ毎日のように呼びかけを続け,hellog でも何度か中間報告をしてきました(nazesantangen_witness) の各記事を参照).皆さんから寄せられた書店での目撃情報をもとに,Google Map 上にピンをコツコツと立て続けてきた次第です.
この目撃マップ企画では,2段階の「全国制覇」目標を設定していました.第1次は,大まかな「地方ブロック」単位(北海道,東北,関東,中部,近畿,中国,四国,九州・沖縄の8ブロック)ですべてにピンが立つこと,第2次は,より精度の高い「都道府県」単位で47都道府県すべてにピンが立つことです.
第1次制覇は,「#6271. 「なぜさんたんげん目撃マップ」の第1次全国制覇達成!」 ([2026-06-28-1]) で報告したように,早くも発売2週間で達成していました.このたび,第2次制覇,すなわち都道府県レベルでの全国制覇も達成しましたので,ここにご報告いたします!(実は9月6日の時点で達成していましたので,報告が遅すぎました,すみません.)
制覇を決定づけたのは,heldio/helwa コアリスナーの umisio さんでした.熊本市のメトロ書店熊本本店に足を運んでくださり,本書が並ぶ書棚を確認してくださいました.これにより,書店の目撃情報が0件だった熊本県に1店が加わり,未達成の都道府県がゼロになりました.発売から3ヶ月というスピードでの第2次全国制覇達成について,著者として率直に驚いています.
記念すべき9月6日(日)23時30分時点の Google Map データを集計してみました.目撃された書店の数は,全国で137店.内訳を都道府県別・地方別にまとめると,次のようになります.
| 地方 | 都道府県 | 店数 |
|---|---|---|
| 北海道 | 北海道 | 2 |
| 東北 | 青森 | 1 |
| 岩手 | 1 | |
| 宮城 | 2 | |
| 秋田 | 1 | |
| 山形 | 1 | |
| 福島 | 1 | |
| 関東 | 茨城 | 4 |
| 栃木 | 1 | |
| 群馬 | 3 | |
| 埼玉 | 4 | |
| 千葉 | 4 | |
| 東京 | 26 | |
| 神奈川 | 13 | |
| 中部 | 新潟 | 1 |
| 富山 | 1 | |
| 石川 | 1 | |
| 福井 | 2 | |
| 山梨 | 1 | |
| 長野 | 3 | |
| 岐阜 | 1 | |
| 静岡 | 3 | |
| 愛知 | 6 | |
| 三重 | 2 | |
| 近畿 | 滋賀 | 1 |
| 京都 | 3 | |
| 大阪 | 9 | |
| 兵庫 | 2 | |
| 奈良 | 1 | |
| 和歌山 | 1 | |
| 中国 | 鳥取 | 2 |
| 島根 | 2 | |
| 岡山 | 1 | |
| 広島 | 2 | |
| 山口 | 3 | |
| 四国 | 徳島 | 1 |
| 香川 | 1 | |
| 愛媛 | 3 | |
| 高知 | 1 | |
| 九州・沖縄 | 福岡 | 2 |
| 佐賀 | 1 | |
| 長崎 | 5 | |
| 熊本 | 1 | |
| 大分 | 1 | |
| 宮崎 | 1 | |
| 鹿児島 | 2 | |
| 沖縄 | 6 |
| 系列 | 店数 |
|---|---|
| 紀伊國屋書店 | 23 |
| くまざわ書店 | 21 |
| ジュンク堂書店(MARUZEN&ジュンク堂含む) | 16 |
| 丸善(単独店舗) | 8 |
| 未来屋書店 | 8 |
| 三省堂書店 | 6 |
| 明屋書店 | 5 |
| 大垣書店 | 4 |
| TSUTAYA(ブックエース/ヤマト屋等の併記含む) | 4 |
| リブロ | 3 |
| 今井書店 | 2 |
| 有隣堂 | 2 |
| 球陽堂書房 | 2 |
| メトロ書店 | 2 |
| 谷島屋 | 2 |
| 八重洲ブックセンター | 2 |
| 慶應生協(三田購買部・日吉店) | 2 |
| 九大生協 | 1 |
| 文教堂 | 1 |
| 宮脇書店 | 1 |
| その他(独立系・単独店) | 23 |

『なぜさんたんげん』にまつわる新しい発信を2件.9月9日(水)と9月10日(木)の両日,NHK出版より,本書と連動した動画およびその動画に基づいたデジタルマガジン記事が公開されました.タイトルはいずれも「なぜ英語は「不規則」だらけなの? 「英語嫌い」に英語史が効く理由」です.動画は全4回の対談形式で構成されており,お相手は千代田区立九段中等教育学校主任教諭の黄俐嘉先生です.
今回のプロジェクトで特筆すべきは,プロデューサー,コーディネーター,脚本家,動画編集社,記事編集社,広報担当者――そのすべてを,『なぜさんたんげん』の編集を担当してくださった田中菜乃香さんお一人で担ってくださったという点です.八面六臂のご活躍に,著者として深く感謝申し上げます.今回の狙いは,今まさに英語が苦手な方,あるいはかつて「英語嫌い」だった方に,あらためて英語史のおもしろさを届けることにあります.
動画は全4回に分かれており,以下よりご視聴いただけます(各5分程度).
デジタルマガジンの記事は,前半・後半の2本立てで公開されています.
・ 前半:なぜ英語は「不規則」だらけなの? 「英語嫌い」に英語史が効く理由
・ 後半:なぜ go の過去形は went なの? 英語への向き合い方が変わる,英語史という入り口
なお,来たる10月10日(土)には,朝日カルチャーセンター新宿教室にて『なぜさんたんげん』出版記念講座も予定されています(詳しくは「#6345. 10月10日(土),朝カルで『なぜさんたんげん』出版記念講座」 ([2026-09-10-1]) をご覧ください).今回の動画・記事とあわせて,1人でも多くの「英語嫌い」だった方に,英語史のおもしろさが届きますように!
関連して,昨日 heldio にて,今回の動画企画の狙いを田中さんと語り合った対談回[[「#1929. 「英語嫌い」に英語史が効く理由 --- NHK出版田中さんとデジマガ・動画公開記念対談」 も配信しています.デジマガ記事・動画とあわせて,ぜひこちらもお聴きください.
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.

1ヶ月後の10月10日(土)15:30--17:00,朝日カルチャーセンター新宿教室にて特別講座「英語学習の伏線回収の鍵は「英語史」だった! --- 『なぜさんたんげん』出版記念」を開催します.
この講座は,今年2026年6月10日にNHK出版新書より刊行された拙著『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(略称「なぜさんたんげん」)の出版を記念しての開講となります.書籍の刊行から3ヶ月が経過し,すでに多くの方々にお手に取っていただいていますが,このたび朝日カルチャーセンター新宿教室の場をお借りして,皆さんに直接,英語史の魅力を語り尽くす機会を設けることになりました.
英語を学んでいて「どうしてこんな面倒なルールがあるんだろう」とため息をついたことはありませんか.現代の英語学習者を悩ませる複雑なスペリングや一見不合理に思える文法規則の数々ですが,その歴史をたどると,背後に潜む驚くほど人間臭いドラマが見えてきます.
本講座では,著書に登場する「妄想モード」や「縦棒地獄」といったキーワードを散りばめつつ,英語史という学問がいかに現代の学習者を暗記の苦しみから救ってくれるか,そしていかに「伏線回収」の快感をもたらしてくれるかを優しく解説します.英語がちょっと苦手な方から,学び直したい大人,そして英語史の沼にすでに片足を突っ込んでいる方まで,どなたでも楽しめる内容です.
講座の概要は以下の通りです.
・ タイトル:英語学習の伏線回収の鍵は「英語史」だった! --- 『なぜさんたんげん』出版記念
・ 日時:10月10日(土)15:30--17:00
・ 受講方法:教室(新宿)あるいはオンライン (Zoom) の自由選択.2週間の見逃し配信のサービスもあります.
・ お申し込み:こちらのページよりどうぞ.
・ 特典:会場受講者向け書籍販売およびサイン会あり
教室で,あるいはオンラインの画面越しに,皆さんとお会いできるのを楽しみにしています.当日ご都合のつかない方も,見逃し配信がありますのでぜひご活用ください.
『なぜさんたんげん』そのものと同様に,本書のる著者公式の特設ページも充実していますので,よろしくお願いします!

・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.

8月28日,日本経済新聞のウェブメディア「日経BizGate」にて,拙著『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(通称『なぜさんたんげん』)のレビューが公開されました.「「3単現のs」に残るこだわり 英語特有の世界観に触れる --- 『英語史で解く英文法の謎』(堀田隆一 著,NHK出版)」です.ぜひご一読ください.
レビューでは,まず表題にも掲げられている「3単現の s」の話題が取り上げられています.英語という言語が人称・数・時制という3つの区別に強くこだわり続けてきたこと,そしてその「こだわり」の生き残りとして3単現の s が現代にまで受け継がれている,という本書の見立てを,レビュアーの方は的確にすくい上げてくださっています.
この「こだわり」というのは,言語学の用語でいえば「文法カテゴリー」 (grammatical category) と呼ばれるものです.おもしろいのは,どの言語にも何らかの独特な文法カテゴリーがあるという点です.ある言語の母語話者からすると,別の言語がなぜそんな細かい区別にこだわるのか,逆になぜあの重要な区別にはまるでこだわらないのか,不思議に思えてくることがあります.ですが,これはお互い様なのですね.英語話者から見れば,日本語の敬語や助数詞のこだわりが不思議に映るでしょうし,日本語話者から見れば,英語の3単現の s や冠詞のこだわりが不思議に映ります.本書でも論じているとおり,それぞれの言語が,長い歴史のなかでたまたまこだわりを育ててきた対象が異なるというだけのことなのです.
もう1つ,レビューで意外にも多くの紙幅が割かれているのが,現代に増え続ける省略語をめぐる話題です.Goodbye のような古くからの省略語に始まり,laser のようなイニシャル取り,Brexit のような単語の切り貼りに至るまで,省略語の背景には「人類史上で最も忙しい現代人」の姿があるという本書の指摘に対し,レビュアーの方は「わずかな語を切り詰める私たちの余裕のなさを少し寂しくも感じた」と,率直な感想を添えています.
実のところ,本書でも論じたとおり,英語における省略語は,歴史を振り返ってみても20世紀以降に顕著に増えていることが明らかなのです.これほどはっきりとした偏りがあるとなると,その背後には現代に特有の何らかのモチベーションがあると考えざるを得ません.そこから私が導いた暫定的な結論が,まさに現代人の忙しさだったわけですが,こうしてレビュアーの方に指摘していただくと,改めて,確かにこれは少し悲しい結論かもしれないな,とも思います.かくいう私自身も,英語であれ日本語であれ,省略語をまったく使わずに日々のことばを紡ぐことは,もはやできない体になってしまっています.
文法の謎解きである「3単現の s」の話題以上に,この省略語をめぐる節に心を動かされたのだとすれば,それはきっと,ことばを忙しなく削り合う現代という時代の感覚を,レビュアーの方も,そして読者の皆さんも,どこかで共有しているからなのでしょう.そう思うと,他人事とは思えない,しみじみとした共感を覚える次第です.
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.
有志ヘルメイトによる月刊ウェブマガジン Helvillian 9月号が,8月28日に公開されました.通算第23号となります.
今号は,Galois さんによる秋の涼しさを感じさせる見出し画像とともに,早速本編の寄稿ラインナップが始まります.
今号も圧倒的な記事量を誇る ari さんからスタートです.犬に絡めたシリウスの話題に始まり,ベルギーの街ブリュッヘと結びつけた英語史のネタ,チーズフォンデュをめぐる一件(タイトルからは何のトピックか分かりませんが,そこは読んでのお楽しみ)など,いつもの通り縦横無尽です.拙著『なぜさんたんげん』と関連付けた記事や,heldio や Helvillian に注目したファンサイト「Helvillain Heal」を公開されたとの報告までなされ,まさに八面六臂のhel活振りです.
mozhi_gengo さんは今号でも多作です,迂言的な do の文法化から,turnstile と urchin の語源,ヴェルネルの法則とグリムの法則を絡めたヒンディー語探訪まで,比較言語学的な視点が冴えわたっています.「青椒肉絲の美味しい店」と関連づけたトピックも要注目です.
辞書通読勢も健在です.lacolaco さんの「英語語源辞典通読ノート」は D ゾーンの dice, dictionary, die まで到達しています.あまねちゃんはこの1ヶ月で通読ノートを第6弾から第9弾まで一気に4本更新し,ひそかに同辞典の「読み解き」にまで手を広げています.August の語源を遡る回や古英語 guma に迫る回も見逃せません.
教育現場からは,sorami さんの中学生向け語源クイズが第14弾,第15弾を数え,和製英語や不定冠詞 a/an,interested と interesting の使い分けといった実践的なテーマを取り上げています.みーさんの「小学生と学ぶ英語史」も引き続き絶好調で,kendama_player さんも英語史におけるヴァイキングの位置づけに関する仮説の紹介や,服部義弘先生への heldio オープンマイク企画の予告など,教育と研究の橋渡し役を果たしてくれています.
ドイツ語と英語史の定点観測を続ける ykagata さんは,rain と salad の語源記事に加え,連載「『英語語源ハンドブック』にこじつけて学ぶドイツ語」が開始から1年を迎えたことを報告しています.ドイツ語 gleich 「同じ,すぐに」と英語 alike が同語源であること,そして Zum Wohl 「乾杯」の Wohl と古英語 Wes hal 「乾杯」の hal が実は別語源だという指摘と考察は刺激的でした.川上さんは「英語と歴史」シリーズを続けられ,「英語のなぜ」やってます通信も積み重ね,地道な連載の強みを見せつけています.
Grace さんは festival という語の成り立ちと「花子」の記号論を論じ,Lilimi さんは仏検準1級の2次試験を振り返り,しーさんは「1000年前にタイムトラベルするなら何を持っていくか」というユニークな視点から「たべっ子どうぶつ」を語り,佐久間さんは梅毒がかつて「フランス病」と呼ばれた歴史を紹介するなど,語学と歴史のはざまを行き来する寄稿が並びます.こじこじ先生の3篇のオリジナル曲も,今号に彩りを添えています.
umisio さんは今号も多く寄稿しています.学校教育での英語史導入の可能性を論じた記事に始まり,「伏線(未)回収」論シリーズも展開しています.酷暑のなかで頻発する「ボケ」への対処法を熱く語る一篇も,umisio さんらしい肩の力の抜けた味わいです.巻末は,Grace さんによる「あゆみ(2026年9月)」と,umisio さんによる「編集後記(2026年9月)」で締めくくられています.
今号もまた,寄稿者それぞれの視点から英語史の奥深さを味わえる充実の号に仕上がっています.ぜひ Helvillian 9月号をじっくりとお楽しみください.そして,この hel活の輪に加わりたいと思われた方は,ぜひ Voicy プレミアムリスナー限定配信チャンネル 「英語史の輪 (helwa)」へお越しください.
(以下,後記:2026/09/02(Wed))
今回紹介した Helvilian 9月号については,heldio 配信回「#1921. Helvillian 9月号公開 --- Helvillian 校了後の編集室からで,編集委員のお2人が直々に紹介していますので,ぜひそちらもお聴きください.

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一昨日の記事「#6328. 月刊誌『英語教育』の「いのほた連載」第6回 --- 英語は本当に「直接的」なのか」 ([2026-08-24-1]) で紹介した同誌の最新刊9月号の70ページに,6月に刊行された拙著『なぜさんたんげん』の書評が掲載されました.評者は岐阜聖徳学園大学の西脇幸太氏です.本書の丁寧なご紹介,ありがとうございます.
今回いただいた書評はコンパクトな紙幅ではありますが,本書の狙いや特徴を的確に捉えてくださっています.本書について「専門的な内容を,質を落とさず平易に解説している点だけでも十分に価値がある」と評価された上で,随所に織り交ぜた日本語との比較対照によって「英語だけでなく日本語への理解も深まり,言葉そのものの面白さや奥深さに気づかせてくれる」点に本書の大きな魅力がある,との言葉を寄せてくださいました.
拙著『なぜさんたんげん』では,現代英語の不規則性や文法上の謎を英語史の観点から解きほぐすだけでなく,日本語という身近な母語のレンズを通すことで,ことばのダイナミズムを立体的に体感していただくことを意識して執筆しました.専門家として記述の厳密さは担保しつつ,一般読者の方々へそのエッセンスを届けるという挑戦に対して,まさに意図したところを汲み取っていただけた思いです.著者として大きな励みになります.
ありがたいことに,刊行以来,雑誌媒体のみならず SNS,ブログ,note,YouTube 等のウェブ上の各種メディアでも,本書に関する熱のこもったご感想や書評,紹介動画などが数多く寄せられています.こうした皆さんからの反響については,著者公式の特設ページにて随時一覧化し,まとめています.
この特設HPでは,いただいたレビューの紹介にとどまらず,本書と関連して音声・動画コンテンツへのリンクも豊富に取り揃えています.本書をすでにお読みいただいた方の復習や深掘り用としてはもちろん,これから手に取ってみようとお考えの方のガイドとしても活用いただけると思います.ぜひ一度特設 HP を覗いてみてください.日々更新しており,アクセスカウンターは2,700を超えています.
引き続き,ブログ,note,各種 SNS,あるいは Amazon などのレビューサイトなど,様々な媒体でのご感想・レビューをお待ちしています.皆さんからの声が,英語史の魅力をより多くの方へ届ける大きな力となります.「hel活」の一環としても,ぜひ率直な声をお寄せいただけますよう,お願いします.
・ 西脇 幸太 「書評:『英語史で解く英文法の謎 「なぜ3単現の s」をつけるのか』(堀田隆一著,NHK出版新書,1,078円)」『英語教育』(大修館) 2026年9月号,2026年.70頁.
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.
6日間にわたり,『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(NHK出版)のカウントダウン企画の振り返り連載を書いてきました.今回はシリーズの「おわりに」に相当する文章となります.
全30回にわたる X(旧Twitter)でのカウントダウン企画,およびそれを凝縮してお届けした今回の連載を通じて,私が主張したかったことは,「3単現の s」という問題が,決して英語学習上の小さな引っかかりなどにとどまらず,英語史と言語学における第一級の学術的問いであるということです.
私たちは中学校の英語教育の初期段階で,「主語が3人称・単数で,時制が現在のとき,動詞の末尾に -s をつける」と教わります.あまりに機械的に暗記させられるルールであるため,多くの学習者はそれを英語の厄介な学習項目として認識してしまいがちです.しかし,一歩立ち止まって英語史の観点からこの問題を眺めると,この小さな -s の背景には驚くほど壮大な英語史と言語変化のドラマが広がっていることに気づかされます.今回の連載で扱った論点を改めて振り返ってみるだけでも,その射程の広さは明白でしょう.
・ 文法範疇の視点からの -s の解釈
・ 直説法という隠された文法条件と,仮定法における屈折の歴史
・ 「なぜ3単現以外は屈折語尾を失ってゼロ化したのか」という反転した問い
・ 英語の変種・多様性からみた「3単現のゼロ」や「全人称 -s」の実態
・ 歴史的語尾 -eth から -(e)s への移行を駆動した(かもしれない)発音の通言語的頻度,北部方言の南下,類推作用
・ エリザベス1世の混用,シェイクスピアの使い分け,『欽定訳聖書』の文体論的選択,そしてアメリカ英語における方言接触などの社会言語学的側面
・ 数千年前の印欧祖語の指示詞 (*so / *to) の動詞への付着と融合という,究極の起源をめぐる問題
カウントダウン企画や今回の連載で取り上げていない論点が,実はまだほかにもあります.今回の集中的な連載ですら取り上げていない,その他の話題がまだまだあるのです.「3単現の s」はまだまだ深掘りできる話題です.
学校文法の教科書に1行で現われる「3単現の s」という規則が,音韻論,形態論,統語論,方言学,社会言語学,そして印欧語比較言語学に至るまで,言語学のあらゆる領域と結びついている --- このことを含み取っていただければと思います.
「なぜルールを守らなければならないのか」という素朴な疑問は,通時的な視点を得ることで,「なぜそのようなルールが結果として現代英語に生き残ったのか」という英語史的な探求へと昇華されます.英語という言語の「不規則性」や「不合理さ」に見える現象の背後には,常に言葉を話し,書き,変化させてきた人間の歴史の積み重ねが存在するのです.
たかが3単現,されど3単現.何気ない文法規則の1つを深く掘り下げることによって,英語という言語の立体的な姿が見えてきます.30の問いを通じて伝えたかったのは,まさにこの英語史研究の醍醐味そのものでした.本連載が,皆さんにとって英語や言語一般の歴史のおもしろさや深みに触れるきっかけとなれば幸いです.
なお,拙著『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(NHK出版新書)の第1章第5節「なぜ3単現の s をつけるのか」では,本連載で触れた論点の一部にしか触れていません.本連載は,その章への詳しい注として理解していただければ.
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.
振り返りシリーズの最終回となる今回は,古い語尾 -eth から新しい語尾 -(e)s への移行期(初期近代英語期)における実際の文献上の様相,そのアメリカ英語への波及,また goes などの綴字 -es の謎,そして比較言語学の地平から見える3単現の屈折語尾の究極の起源にまで迫ります.
16世紀後半,エリザベス1世が残した散文や手紙の記述を分析すると,興味深い事実が浮かび上がってきます.彼女の文章の中では,古くからの語尾 -eth と,当時拡大しつつあった新しい語尾 -s が,おおよそ 1:2 という割合で混用されていました.最高権力者・知識人であった女王自身が新旧の形態をちゃんぽんに使っていたという事実は,この時代がこの屈折語尾の移行期の真っ只中にあったことを物語っています.
シェイクスピアの戯曲テキストは,この語尾交代の社会言語学的な様相をさらに鮮やかに示してくれます.彼は,散文の台詞においては圧倒的な頻度で新しい -s 語尾を使用していました.1600年前後には,すでにロンドンの口語表現として -s が十分に一般化していたことがうかがえます.一方で,韻文においては,韻律の音節数を調整するためにか,あるいは古風で荘厳な響きを演出するためにか,古い -eth をあえて効果的に併用しました.劇作家として,2つの形態がもつ機能的・韻律的な違いを熟知し,巧みに使い分けていたのです.
一方,1611年に刊行された『欽定訳聖書』 (The King James Version [KJV]) の動詞屈折の様相は,当時の口語の趨勢とは対照的でした.聖書のテキストにおいては,古い -eth が100%用いられ,新しい -s 語尾の採用は皆無でした.これは,聖書という文体に求められる荘厳さ,権威,そして神聖さを保持するため,当時すでに日常の口語として定着していた革新的な -s の侵入を意図的に排除した古風主義に基づく分布といえます.
こうした移行期には,書き言葉の綴字と話し言葉の発音の間に生じたミスマッチも観察されます.当時の人々は紙の上に -eth と書き記しながらも,それを実際に音読する際には口頭で -s と発音するケースが頻発していたようなのです.綴字は保守的にとどまりつつも,音声的な変化が先行して拡大していくという,言語変化における時間差の典型例といえます.
17世紀初頭より北米大陸へと渡っていった植民者たちによって移植された英語変種においては,新しい -s 語尾の拡大と定着のスピードが,本国イギリスよりも若干早い傾向を示したという調査結果もあります.一般に,移住した言語は本国の古い形態を保持しやすいとされますが,3単現の -s に関しては,多様な出身地から集まった人々による言語接触と単純化の力学が働き,革新的な定着が急速に進むこととなったということかもしれません.
そして,もう1つ,別種の問題についてです.現代英語の綴字規則において,go や do の 3単現形は単に -s をつけるのではなく,goes, does のように -es を付加します.文字素配列上の都合として,単語の末尾を -os という並びで終わらせる表記が歴史的に好まれなかったことが背景にありそうです.語幹と屈折語尾の独立性を視覚的に明確に示し,標準的なパターンに整える表記上の工夫として定着してきたと考えられます.
最後に,印欧比較言語学の視点から,そもそもなぜ 3人称の屈折語尾に -s や -th のような子音が出現したのかという究極の起源を探ってみましょう.有力な説によれば,印欧祖語の段階において,指示代名詞(「これ」「それ」を指す表現,現代英語の this, that などの祖先)であった *so や *to といった要素が,動詞の末尾に付着し,融合していった結果であると考えられています.本来は動詞のあとに「それ」「彼」という指示詞を添えて発話していた文法構造が,幾世代もの時間をかけて動詞の屈折語尾へと化石化していったという構図です.
さて,全5回にわたる連載を通じて,「3単現の s」という学校文法でお馴染みの小さなルールが,実は文法範疇の体系性,変種間における屈折パターンの多様性,方言接触,そして数千年に及ぶ印欧語の歴史などと深く結びついていることを見てきました.身近な英文法の「なぜ?」の背後には,常にダイナミックな英語史のドラマが広がっているのです.
本ブログのシリーズとしては,やや急ぎ足で,かつ濃密すぎる内容だったかもしれません.しかし,実際には30日をかけて少しずつ「3単現の s」の理解を深める,カウントダウン企画としてお届けした企画でした.応援いただいた皆さんに,改めて感謝します.
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.
振り返りシリーズの過去3回の記事では,3単現の基本原理や形態・音韻変化のメカニズム,そして非標準変種における多様な実態について議論を進めてきました.第4回となる今回は,英語史における最大のミステリーの1つ,「なぜ歴史的な 3単現語尾 -eth が現代の -(e)s へと変化したのか」の謎に迫ります.音韻変化の検証および類推作用 (analogy) の視点から,この変化についての諸説を覗いてみましょう.
古英語から初期近代英語にかけて,3人称・単数・現在・直説法の動詞語尾は,現代のような -(e)s ではなく,-eth でした.たとえば,現代英語の sings や helps は,かつて singeth や helpeth のような形でした.これがなぜ -(e)s へと取って代わられたのでしょうか.語尾の母音脱落を伴うこの交替劇は,英語屈折史における注目すべき変化の1つであり,多くの言語学者の好奇心を刺激し続けてきました.
この変化について「th /θ/ と s /s/ は発音が似ているから,互いに混同されて入れ替わったのではないか」という仮説が提出されることがあります.確かに,日本語母語話者にとって両音はともにサ行音に聞こえるため,一見すると納得しやすい説明に思えます.しかし,音韻論の観点から見れば,イングランド英語の歴史において,歯音 /θ/ と歯茎音 /s/ が混同されたケースはきわめて稀でした.両音は英語の体系内において異なる音素として厳密に区別されてきたため,単に「発音が似ていたから自然に置き換わった」とする説は,音韻変化の根拠としては弱いと言わざるを得ません.
デンマークの言語学者 Otto Jespersen は,音素の汎言語的な頻度と効率性の観点からこの問題にアプローチしました.無声歯摩擦音 /θ/ は,世界の言語を見渡しても相対的に出現頻度の低い珍しい音素である(451言語中 4--5% にのみ出現)ため,言語変化の過程でより一般的で扱いやすい /s/ へと淘汰されたという見解です.実際,現代英語の無声音の出現頻度データを参照しても,/s/ が第6位という上位に位置するのに対し,/θ/ は第40位と大きく引き離されています.日常会話できわめて高頻度に表れる3単現語尾から,珍しい音素である /θ/ が避けられ,より発音しやすく一般的な /s/ へとシフトしたという見解は,言語の省力化という観点から一理あります.
より通時的・方言学的な実証に基づく有力な説として,北部方言影響説があります.中英語期,3単現語尾の子音は南部方言で -th,北部方言で -s が基本でした.北部方言では,すでに古英語期(あるいは古ノルド語との言語接触の時期)から 3単現語尾として -s が定着しつつありました.中英語期以降,人口移動や経済的・社会的交流の拡大に伴い,この北部方言の -s が南下し,やがてロンドンを中心とする標準英語の基盤となる変種へと浸透・定着していったとする考え方です.
次いで,屈折体系の内部力学に着目した構造的な説が,2人称単数語尾からの類推説です.古英語・中英語の動詞屈折表を振り返ると,2人称単数 thou に対応する語尾は -est (簡略化して -es とも)でした.この2単現の -es の形態が,3人称単数に対して,類推的に拡大・適用されたのではないか,という見解です.
もう1つの類推説は,最も高頻度で使われる be 動詞の 3単現形 is に着目する説です.be 動詞の3単現形である is は,古英語期より一貫して末尾に /s/ (ただし後には /z/)の音を保持していました.英語の動詞体系の中で圧倒的な使用頻度を誇る is の子音がモデルとなり,一般動詞の3単現語尾へと波及・類推適用されたのではないかとする解釈です.
歴史的語尾 -eth から現代の -(e)s への交代は,単一の要因のみならず,方言の交錯(北部方言の南下)や屈折体系内の類推作用,さらには発音の効率化といった複数の要因が複雑に絡み合って引き起こされたと考えるのが自然かもしれません.
明日の第5回は,エリザベス1世やシェイクスピアの時代における -eth と -s の劇的な移行期の諸相,そして語尾 -s の究極の起源に迫ります.
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.
一昨日と昨日の記事では,標準英語の体系を中心に,3単現の基本原理や形態・音韻変化のメカニズムを整理してきました.本日は,視点を標準英語の外側へと広げ,世界英語 (World Englishes) や地域方言といった多様な変種 (variety) の観点から「3単現の -s」のあり方を相対化してみようという試みとなります.
私たちが学校で習う標準英語では,主語が 3人称・単数・現在であれば動詞に -s をつけることが「絶対のルール」とされています.しかし,標準英語の枠から一歩外に出ると,3単現であっても -s をつけない英語変種が数多く存在します.
例えば,ロンドンにほど近いイングランド東部,イーストアングリア (East Anglia) 地方の地域方言では,伝統的に 3単現の -s をつけません(e.g., He walk., She know.).さらに視点を世界へ広げれば,アフリカ系アメリカ人英語 (AAVE) や,ピジン英語,クレオール英語,そして世界各地で話される英語変種において,3単現の -s を欠く「3単現のゼロ」は決して珍しい現象ではありません.
逆に,人称や数に関係なく,あらゆる文脈で動詞に -s を付与する英語変種も存在します.イングランド北部方言や,ウェールズ南部・南西部の諸方言などでは,次のような文をごく自然に耳にします.
・ I likes it.
・ We goes home.
・ You throws it.
歴史的に見れば,英語の動詞の人称屈折は,地域や方言によって驚くほど多様でした.「3人称単数だけに -s をつける」という標準英語のパターンは,そうした無数の変異のなかの1つの選択肢にすぎなかったのです.
Shakespeare などの初期近代英語の文献を読んでいると,一見すると文法的に破綻しているように思える次のような文に出会うことがあります.
・ they laugh that wins (勝つ者たちが笑う)
前半の主語 they に対する動詞は laugh (-s なし)であるのに対し,後半の主語(that = they)に対する動詞は wins (-s あり)となっています.なぜ同じ複数主語に対して,-s の有無が分かれているのでしょうか.
実は,ここには明確な文法原理が働いています.中英語期のイングランド北部方言に由来する特異な規則です.この規則のもとでは,主語が複数代名詞であっても,動詞と隣り合っている場合には -s がつかず(they laugh),主語と動詞が離れている場合や主語が名詞である場合には -s がつくという複雑な規則が存在していました.
さらに驚くべきことに,過去形にまで -s がついた歴史的形跡が存在します.現代英語の methinks 「~のように思われる」は,非人称動詞に由来する古風な表現ですが,この過去形として,通常期待される methought に加えて,なんと過去形でありながら -s 付加が生じた methoughts という形,「3単過の s」が文献上に実在しました.
> Me thoughts that I had broken from the Tower. (Shakespeare, Richard III)
屈折語尾 -s の文法的な機能の揺らぎと多様性を示す,きわめて興味深い歴史的証拠です.
現代の World Englishes 研究において,広範な変種データを集積したデータベース eWAVE (ewave) の調査結果は,私たちが教わる「普通」を捉え直す上で大きな示唆を与えてくれます(「#6239. 世界英語諸変種にみる「3単現の s」と「3単現のゼロ」 --- eWAVE 3.0 のデータより」 ([2026-05-27-1]) を参照).
世界の英語変種を見渡すと,3単現において -s をつけない「3単現のゼロ」は,調査対象となった変種の69%で確認され,その平均普及率は72%に達します.一方で,「人称にかかわらずとにかく -s をつける」という変種も35%(普及率45%)存在しています.
この言語類型論的なデータが意味するのは,標準英語が採用している「3人称・単数・現在というピンポイントの条件でのみ -s を要求する」という規則こそが,世界中の英語のなかではむしろアンバランスで珍しいものであるという事実です.
標準英語の「3単現の s」は,決して言語として普遍的で合理的なルールというわけではなく,多様な方言的変異のなかから歴史の偶然によって標準化された規則にすぎません.標準英語の外からの視点をもつことで,英文法をより相対的・客観的に眺めることができるようになりますね.
明日の第4回は,歴史的に3単現の語尾であった -eth が,なぜ現代の -(e)s へと変化を遂げたのか,その諸説に迫ります.
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.
昨日公開した振り返りシリーズ第1回記事「#6309. 文法範疇から「3単現」を再考する --- 『なぜさんたんげん』カウントダウン企画の振り返り (1)」 ([2026-08-05-1]) では,「3単現直の s」という正確な条件設定や,英語のもつ「人称」「数」「時制」という文法範疇の視点から,動詞屈折の基本原理を整理しました.
本日の第2回は,学校文法や英語学習でよく突き当たる「助動詞 can にはなぜ 3単現の -s がつかないのか?」,says / has / does に見られる不規則な音変化の謎,そして「名詞の複数形 -s」と「動詞の 3単現 -s」の歴史的な関係について考察していきます.
1. なぜ can などの助動詞には 3単現の -s がつかないのか?
英語学習者から非常によく寄せられる疑問の筆頭に,「主語が 3人称・単数・現在であっても,なぜ can や may などの助動詞には3単現の -s がつかないのか」というものがあります.
結論からいえば,その理由は「語源的にこれらの助動詞が過去形だから」です.can, may, must, shall などの法助動詞の多くは,現代英語では形も現在形のように見え,時制としても現在を表しています.しかし,歴史をさかのぼると,これらは本来「過去」の形態をもつ過去現在動詞 (preterite-present_verb) と称される動詞群でした.もともとは過去の意味を表していた形が,歴史の過程で現在の意味を表すように変化したという経緯をもっています.
第1回で確認した通り,-s はあくまで「3単現(直)」でないとつきません.これらの助動詞は形態的なルーツが過去形であるため,語尾に 3単現の -s を取る条件そのものが歴史的に存在しなかったのです.
2. なぜ says は「セイズ」ではなく「セズ」なのか?
動詞 say の 3単現形である says は,綴字通りに読めば「セイズ」となりそうですが,標準的な発音は /sez/ 「セズ」となります.
このような微妙な不規則性は,言語において「超」がつくほどの高頻度語にこそ起こりがちです.日常会話できわめて頻繁に使用される単語は,弱く,省略されて発音される機会が多く,音の短化や変化を被りやすくなります.
says の発音に関して,実はイギリスの非標準方言や一部の地域変種では綴り通りの「セイズ」も聞かれますが,標準英語においては高頻度使用による音変化の定着結果として「セズ」が標準的となっています.
3. has や does の不規則性
says と同じく,have の 3単現形 has /hæz/ や,do の 3単現形 does /dʌz/ も,極めて不規則な形態・発音を示します.
これらも全く同じメカニズムによるものです.日常的なコミュニケーションで絶えず使われる超高頻度語だからこそ,歴史上の長い時間をかけて独自の音変化を起こし,現代のような不規則な形として生き残ることになりました.
4. 動詞の 3単現 -s と名詞の複数形 -s の関係
文法を学ぶ際,「名詞に -s がつくと複数」であり,「動詞に -s がつくと(3人称)単数(現在)」であるというルールに出会い,頭を抱えてしまう学習者もいるかもしれません.では,動詞の3単現の -s と名詞の複数形の -s には,歴史的に共通のルーツがあるのでしょうか.
結論をいえば,両者の間に歴史的なつながりは特にありません.名詞の複数形語尾 -s (古英語の男性強変化名詞屈折語尾 -as に由来)と,動詞の 3単現語尾 -s (中英語期の北部方言等に由来し,古英語の -eþ などが置き換わったもの)は,それぞれ異なる歴史的経緯をたどって発達してきました.歴史の偶然として,たまたま現代英語において同じ -s という音・綴字に収斂してしまったにすぎません.
ただし,共時的(現代英語の体系内)に見れば,非常に興味深い対照構造を成しています.
・ 主語名詞が単数形(-s なし)のとき,動詞に -s が現れる(e.g., The dog runs.)
・ 主語名詞が複数形(-s あり)のとき,動詞に -s が現れない(e.g., The dogs run.)
通時的な歴史背景は別々でありながらも,現代英語の体系においては,主語と動詞の間で -s の有無がきれいに相反するような対称性を保っているという見方ができます.
助動詞の屈折の欠除も,says や has の不規則な変化も,すべて英語史の通時的なプロセス(過去現在動詞の成り立ちや高頻度語の音変化)を紐解けば,説明がつきます.
明日の第3回は,標準英語の枠を超えて,イギリス各地の方言や World Englishes(世界英語)における「3単現のゼロ」や「全人称の -s」の実態に迫ります.
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.
昨日の記事 ([2026-08-04-1]) で予告した通り,本日より5回にわたり,拙著『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(NHK出版新書)の刊行に寄せて行なったカウントダウン企画の論点を整理し,「3単現の s」に関する連載を始めます.
シリーズ第1回となる今回は,私たちが学校文法で当たり前のように習う「3単現」という文法用語そのものを再考してみたいと思います.
1. 問うべきは「なぜ3単現以外には何もつけないのか?」
英語を学ぶ際,誰もが一度は「なぜ動詞にわざわざ 3単現の s をつけるのか」という疑問を抱きます.しかし,英語史の視点から見れば,実は問うべき真の問いは反転します.本来問うべきは,「なぜ3単現以外には何もつけないのか?」なのです.
古英語の時代には,1人称にも2人称にも異なる動詞の屈折語尾が付きました.歴史の過程でそれらの語尾が次々と消失していくなかで,「3人称・単数・現在」の屈折のみが語尾を保持し続けた --- 英語史においては,この問いの立て方の転換こそが重要となります.
2. 正しくは「3単現直の s」
ところで,私たちが親しんでいる「3人称・単数・現在」という条件指定ですが,厳密な文法記述としては実はこれでは足りません.例えば,次の文を見てみましょう.
God save the king. (国王万歳)
この文の主語は God であり「3人称・単数」です.時制も「現在」を指していると捉えてよいですが,動詞に -s はついていません.なぜなら,この文は仮定法だからです.
つまり,-s が現れるためには,さらに「直説法であること」という条件を付け加えなければなりません.文法用語として正確を期すならば,「3人称・単数・現在・直説法の s」,略して「3単現直の s」と呼ぶべきなのです.「3単現の s」は語呂も通りも良いものの,厳密に検証すると抜け落ちている条件があることに気づかされます.
3. なぜ仮定法では s をつけないのか?
では,なぜ仮定法では 3単現であっても -s がつかないのでしょうか.歴史を古英語期に遡ってみましょう.
古英語において,仮定法(接続法とも呼ばれました)の屈折体系は直説法とは大きく異なっていました.仮定法では時制にかかわらず,単数であれば一律に -e 語尾が,複数であれば -e(n) 語尾がつきました.例えば,古英語の leornian (現代英語の learn)の活用を見ると,3人称・単数・現在・仮定法の形は leornie であり,もともと -s (正確には当時の屈折語尾を構成した þ)が出る余地はなかったのです.
この古英語の仮定法単数語尾 -e が後に音変化によって消失した結果,現代英語の仮定法現在形は「動詞の原形と同じ形」として残ることになりました.
4. そもそも「人称」「数」「時制」とは何か
3単現を構成する「人称」「数」「時制」といった要素は,言語学では「文法範疇」 (category) と呼ばれます.これらは各言語固有の「こだわり」,あるいはその言語が世界をどのように切り取っているかという世界観を反映する装置です.
【 人称 (person) 】
英語の用語で人称は単に person ですから,概念としては「どんな人か」という単純な区分にすぎません.英語の体系は,「私」箱(1人称),「あなた」箱(2人称),そしてそれ以外の「その他」箱(3人称)という3つの領域で世界を分類しています.
【 数 (number) 】
英語は数えられるモノの名詞について,単数か複数かを文法的に明示することを強制する言語です.名詞において単数・複数を区別する文化は理解しやすいとしても,その名詞の都合が動詞の語尾(屈折)にまで波及し,主語の数に応じて動詞の形を変えさせるという点は,英語の「数」への並々ならぬこだわりを示しています.
【 時制 (tense) 】
「時制」とは,現実の「時間」そのものではなく,時間関係を言語化するための文法上の制度です.現代英語の動詞の屈折体系において,動詞自体の形態変化で直接表現できる時制は「現在形」と「過去形」の2つしかありません.未来の事態を表す際には will や be going to などの助動詞や迂言的表現を添える必要がある点など,英語の時制体系は非対称の構造を持っています.
このように,普段何気なく暗記させられる「3単現の s」も,文法範疇の視点や英語史の通時的視点から解きほぐしていくことで,英語という言語がもつ体系性と変化のダイナミズムが見えてきます.
明日は,助動詞 can に s がつかない理由や,says/has/does などの不規則な音変化,そして名詞の複数形 -s との関係性について考察していきます.
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.
6月10日に発売された『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(NHK出版)が,好評いただいています.
発売1ヶ月前より,私の X(旧 Twitter)アカウント @chariderryu 上で「なぜさんたんげんカウントダウン企画」として,本書に関連する話題を毎日1つ投稿していくことを試みました.結果としては予定通り30件を投稿し,カウントダウン企画は無事に終了しました.ハッシュタグ検索 #なぜさんたんげんカウントダウン より,すべての投稿というわけではありませんが,大半を閲覧できます.
本書の副題に「3単現の s」 (3ps) が含まれていますが,本書ではそれだけを扱っているわけではなく,広く英語史の話題を取り上げています.本書のプロモーションのためには,30日間のカウントダウン企画でも様々なトピックを取り上げるのが効果的だったのでしょうが,企画開始後の早い段階から「3単現の s」のみの話題で30日間続けてみようか,という研究者としての酔狂な挑戦魂が発現してしまい,結局その路線で走り切りました.
カウントダウン企画に伴走してくださった ari さん,ykagata さん,り~みんさんを始め,企画を応援していただいた皆さんに感謝致します.とりわけ ari さんは,日々の私の関連投稿を素材としてユーモアとダジャレたっぷりの4コマ漫画「英子さんたんげん」シリーズを創始され,本書発売後も「3単現の s」から独立して進化し続けているという,驚きの熱心さです.
30日間,伴走者の方々とのやりとりを通じて,私自身が「3単現の s」について多角的に問い直し,理解を深める機会を得ることができました.本来は『なぜさんたんげん』のプロモーションを念頭に置いた企画でしたし,遊び心を含めた気軽な試みとして始めたものだったのですが,完走した後から振り返ってみると,これは「3単現の s」をめぐるブレストであり,ディスカッションであり,最高の勉強法となっていたと思うのです.誇張ではなく本当です.私自身は「3単現の s」の話題を研究し,論文を書いてきた経緯がありますが,今回のカウントダウン企画では,まったく別のアプローチからの新鮮な「3単現の s」論を展開できたと考えています.
この30日間の議論の成果を何らかの形で記録に残すべく,向こう数日間の hellog 記事を通じて「なぜさんたんげんカウントダウン企画」を振り返って行こうと思います.本日の記事は,その連載の序文の役割を果たします.連載の開始に先立ち,以下に30投稿の各々へのリンクを掲げておきましょう.ぜひ1つひとつ訪れてみてください.
1: https://x.com/chariderryu/status/2053849551249854633
2: https://x.com/chariderryu/status/2054170139075956800
3: https://x.com/chariderryu/status/2054533296516628698
4: https://x.com/chariderryu/status/2054918817961128222
5: https://x.com/chariderryu/status/2055257307315892728
6: https://x.com/chariderryu/status/2055574258395251097
7: https://x.com/chariderryu/status/2055937157571719216
8: https://x.com/chariderryu/status/2056284114517479854
9: https://x.com/chariderryu/status/2056651859020919199
10: https://x.com/chariderryu/status/2057033989668430082
11: https://x.com/chariderryu/status/2057388292769759342
12: https://x.com/chariderryu/status/2057745491052441925
13: https://x.com/chariderryu/status/2058311892037226717
14: https://x.com/chariderryu/status/2058460797987086628
15: https://x.com/chariderryu/status/2058828159659712651
16: https://x.com/chariderryu/status/2059196134858408270
17: https://x.com/chariderryu/status/2059584458932556083
18: https://x.com/chariderryu/status/2059901339853877679
19: https://x.com/chariderryu/status/2060263459669889166
20: https://x.com/chariderryu/status/2060633529013129354
21: https://x.com/chariderryu/status/2060984532451418384
22: https://x.com/chariderryu/status/2061359561030635769
23: https://x.com/chariderryu/status/2061705258821132776
24: https://x.com/chariderryu/status/2062070033589608841
25: https://x.com/chariderryu/status/2062431166200742226
26: https://x.com/chariderryu/status/2062822274856554627
27: https://x.com/chariderryu/status/2063171987405516891
28: https://x.com/chariderryu/status/2063523991487221807
29: https://x.com/chariderryu/status/2063888225546969167
30: https://x.com/chariderryu/status/2064380208119972160
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.
7月28日,有志ヘルメイトによる月刊ウェブマガジン Helvillian 8月号が公開されました.通算第22号となります.
まず,編集委員の Galois さんによる素晴らしい表紙デザインが目を引きます.今号の「表紙のことば」を担当されたのは,佐久間さん(helwa のハンドルネーム「無職さん」)です.上海の外灘(ワイタン)に建つ旧中国税関の時計塔を取り上げ,イギリス帝国の領土拡大と英語の世界進出の歴史を重ね合わせて解説してくれています.ロンドンの Big Ben をモデルとし,かつて「ウェストミンスターの鐘」を響かせていた時計塔が,現在では革命歌「東方紅」を奏でているという歴史の皮肉は,まさに英語史が世界史の一部であることを思い出させてくれます.専門家である佐久間さんは,日本歯科医史学会や救急蘇生法教育の歴史に関する記事も寄稿されています,
今号の収載記事も,多種多様で魅力的なラインナップが揃っています.前号に引き続き熱を帯びているのが『なぜさんたんげん』関連の記事です.ari さんによる「英子さんたんげん」や「3単現」関連の記事,しーさんによる「日本語で読もう!『なぜさんたんげん』」,あまねちゃんさんによる「載りそうで載らなかったトピックを想像してみた」シリーズなど,多角的なアプローチで『なぜさんたんげん』を盛り上げています.
語源や英語史の深掘り記事も百花繚乱です.mozhi gengo さんは plaster, pairing, bear などいつもながらに様々な語源を取り上げられていますが,他のヘルメイトのhel活と互いに影響を与え合う話題選びも目立ち,「hel活の輪」を体現しています.同じように,ykagata さんの house や ghost やドイツ語に絡めた多様なコンテンツも,「hel活の輪」を回し続ける動力源です.lacolaco さんの「英語語源辞典通読ノート D」は職人技の域に達していますね.sorami さんの「中学生向け英語語源クイズ」,川上さんの「homework と housework の違い」をはじめとする素朴な疑問系のトピック,みーさんによる「小学生と学ぶ英語史」シリーズなど,教育現場や日常に即したコンテンツが目白押しです.
さらに,Lilimi さんの『古文と漢文』読書記,rei さんの ghost から spirit への「helwa 論」,こじこじ先生によるオリジナル曲の披露,kendama_player さんによる英語史講座報告など,ヘルメイト個々の関心と創造性が炸裂しています.
新刊書,宮嵜 由美・八木橋 宏勇(編)『響き合うことばと社会』(開拓社)を記事で紹介された Grace さんは,「helwa のあゆみ」も執筆されています,北千住オフ会での Baugh and Cable 精読会や,急遽開催され大盛況となった「ダブリン・ギネス収録会」の熱気が記録されています.
そして,研究者論や helwa 論にも関心の強い umisio さんによる「編集後記」は必読です.井上逸兵先生の「ゆる言語学ラジオ」出演に端を発した酷暑の「ボケ」大ブームと,ari さんの極上 note 記事「青椒肉絲の美味しい店」をめぐりリスナーや私の大混乱をユーモアたっぷりに語ってくれています.
今号の目次を取りまとめてくださった Lilimi さん,そして編集委員の Galois さん,Grace さん,umisio さん,本当にありがとうございました.
hellog 読者の皆さんも,ぜひ Helvillian 8月号を開いて,この熱気あふれる学びの場を体験してみてください.そして,この熱いhel活の輪に加わりたいと思われた方は,ぜひ Voicy プレミアムリスナー限定配信チャンネル 「英語史の輪 (helwa)」 へお越しください.その日からあなたもヘルメイトです!

6月10日(水)の『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(NHK出版)の刊行から,早くも6週間が経ちました.おかげさまで,発売前増刷に始まり,現在も全国の書店で第2刷が展開されるなど,大変大きな反響をいただいております.読者の皆様,そして日々盛り上げてくださっているヘルメイトの皆さん,ありがとうございます.
さて,本日は刊行と同時に立ち上げた『なぜさんたんげん』特設HPについて改めてご紹介します.本書特設サイトとしてスタートしたこの Web ページですが,発売後のこの1ヶ月あまり,ほぼ毎日にわたってコンテンツを更新・追加してきた結果,単なる新刊紹介の域を超え,文字通り『なぜさんたんげん』を取り巻く公式ポータルサイトへと進化を遂げています.
サイト上のアクセスカウンターも,本記事の執筆時には2493アクセスを記録しており,連日多くの方にお越しいただいています.改めて,現在の特設HPがどのような充実した構成になっているのか,その見どころをご案内します.
1. 豪華陣容による反響・推薦の声:英語史研究者の寺澤盾先生(青山学院大学教授,東京大学名誉教授)からお寄せいただいた特別寄稿レビューをはじめ,杏林大学の倉林秀男先生による4連スレッド・ロングレビュー,慶應義塾大学の川原繁人先生,九州大学の内田諭先生,上智大学の小河舜先生といった専門家による熱い推薦コメントを掲載しています.さらに,SNS や note,ブクログ等で寄せられた読者の皆さんの生の声を凝縮して掲載しています.
2. 連動メディア・コンテンツへのリンク:著者自身による本文の公式朗読音声ページへのリンクのほか,NHK出版編集者の田中菜乃香さんとの Voicy 対談全7回,リスナー川上さん企画「聞かせて!『なぜさんたんげん』のなぜ」シリーズ,さらには在外の著者による現地からの最新 YouTube ミニ動画など,本と立体的に連動する音声・動画コンテンツへワンクリックでアクセスできます.
3. 全目次 & インテリジェントリアルタイム検索機能:本書に詰め込まれた24の疑問とすべての章・節・小見出しを完全網羅.ページ上の検索窓にキーワード(例:「屈折」「マジックe」「語順」など)を入力すると,瞬時に該当するトピックが絞り込まれる便利なシステムを実装しています(←生成AIを用いて密かに実装しているのですが,ほとんど知られていません).
4. 「24の疑問・総選挙」最終結果:発売前に実施し,投票総数96件を集めた Slido 総選挙の確定順位を全公開しています.堂々1位の「なぜ3単現の s をつけるのか」から,予想外の健闘を見せた「Z のミステリー」まで,読者のモヤモヤ度が一目でわかります.
5. なぜさんたんげん目撃マップ & 全国書店棚ギャラリー:読者の皆様から寄せられた全国各地の目撃情報をもとに作成した Google Map (すでに100ピン近く立っています)と,撮影許可をいただいた全国の書店様の愛あふれる売り場写真をズラリと展示しています.すでに50枚以上の書棚写真が掲載されています.
6. 授業用「英語史無料レジュメ」& 店頭用POPポスター配布:全国の中学・高校・大学の先生方が授業や学年通信でそのまま配れる特製 PDF レジュメ第1弾(「なぜ3単現の s をつけるのか」)や,書店員様向けの印刷用販促ポスター(A4/B5対応PDF/PNG)を無料配布しています.
『なぜさんたんげん』は,本を開いて読むだけでも完結する1冊ですが,この特設HPを経由して,読者の皆さんの感想,著者による音声や動画のコンテンツ,全国の書店の様子とつながることで,何倍も深く立体的に体験できる「開かれた本」となっています.
まだ特設サイトをご覧になっていない方は,ぜひ一度覗いてみてください.そして,ぜひ周りの英語学習者や先生方,本好きのご友人にも,このポータルサイトのリンクをシェアしていただけますと幸いです.
学校英語の「呪文」の向こう側にある驚くべき歴史の物語を,一緒に目撃していきましょう!
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.
heldio/helwa コアリスナーの sorami さんによる『英語語源ハンドブック』に基づいた「授業で使える!中学生向け英語語源クイズ」シリーズが,快進撃を続けています.隔週土曜日に新作が公開されることになっており,最新回は1週間前の7月11日に公開された第13弾「授業で使える! 中学生向け英語語源クイズ#13~和製英語・語順~」です.
今回公開された第13弾は,タイトルにもあるように「和製英語」と「語順」という,中学生にとっても身近でありながら英語史的にも奥深いテーマにまで話題が及んできました.ネタバレにならない程度にクイズ問題のラインナップを要約します.
まずは日常単語の語源を取り上げての軽いジャブから始まり,句動詞のクイズへと展開します.そして,今回の注目ポイントの1つとして,私たちが日常的に使っているカタカナ語の意外な罠を突く和製英語の謎が問われます.さらに,意味変化や語彙交替という英語史の色彩の濃いトピックに移り,最後には英語の語順の歴史的変遷へと導く文法的な問いに至ります.全体が見事なグラデーションで構成されています.単純な単語問題から,英語の統語構造の背景にまで自然と知的好奇心を誘う流れになっており,クイズ職人としての sorami さんの手腕に今回も感心しました.
とりわけ語順に関する話題は,英語史における最重要テーマの1つです.現代英語は語順が厳格に固定された言語ですが,かつての古英語期には名詞の格変化が豊かだったため,語順は比較的自由でした.歴史の過程で屈折語尾が衰退した結果,語順が文法機能を担うようになり,現代のような固定語順が確立していったのです.このあたりの語順や文法をめぐるダイナミックな変化については,先月刊行されたばかりの私の新刊書『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(NHK出版)でも詳しく解説しています.今回の sorami さんのクイズと合わせて本書をお読みいただくことで,「英語のなぜ」の背景にある歴史のロマンがより立体的に見えてくるはずです.本書もどうぞよろしくお願いします.
いつもの通り,sorami さんの note 記事では,「授業の小ネタ,ウォームアップ,グループ活動などに自由に使っていただければ幸いです.ALTの先生を巻き込むのもありですね!」と述べられています.全国の英語教員の皆さん,ぜひこのクイズを実際の学校の授業などで活用してみてください.ALTの先生を巻き込んでペアワークやグループ活動に導入すれば,教室が大いに盛り上がることは間違いありません.
出題や解説にあたっては,原則として『英語語源ハンドブック』に依拠しているということですので,その点もご安心ください.専門的な知見に基づいた信頼できるクイズだからこそ,自信をもって教材としてお使いいただけます.この素晴らしいクイズシリーズが,さらに多くの教育現場へと広がっていくことを願っています!
第13弾については,先日の Voicy heldio でも取り上げました.ぜひ「#1870. 和製英語と語順にフォーカス --- sorami さんの『英語語源ハンドブック』クイズ・シリーズ第13弾」をお聴きいただければ.
関連して,最後に1つお知らせです.6月30日に,物書堂さんより『英語語源ハンドブック』アプリ版が発売されました(アプリ版を利用できるのは iOS ユーザーのみとなります).通常価格は3,800円ですが,発売日より3週間,7月21日までは「初回セール期間」となっており,セール期間の価格は2,800円と(26%オフ)となっています.この機会に,ぜひアプリ版のハンドブックもご活用いただければと思います.詳細はこちらよりどうぞ.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.

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7月14日,大修館書店より月刊誌『英語教育』の7月号が刊行されました.今年度,同雑誌において,YouTube 「いのほた言語学チャンネル」でご一緒している同僚の井上逸兵さん(慶應義塾大学教授)とともに,連載企画「いのほた言語学チャンネル PRESENTS 英語を深める社会言語学・英語史の視点」を担当しています.
最新号の第5回の記事は,私が主に執筆しました.タイトルは「英語と日本語の語彙の3層構造」です.新刊『英語語源で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(NHK出版新書,通称『なぜさんたんげん』)の第4章第1節「なぜ英語には類義語が多いのか」で注目した話題をご紹介しています.
英語は語彙が豊富で,類義語も多い言語です.諸言語の最大の辞書の見出し語数で比べてみても,英語は少なく見積もっても60万語(実際には優にその数倍はあると予想されます)と,他の主要な言語を大きく引き離しています.たとえば「尋ねる」を意味する基本的な動詞に ask がありますが,ほかにも inquire や interrogate といった類義語がいくつも存在します.英語に類義語が多い理由は,歴史における他言語との接触の累積によって,語彙の階層構造ができあがってきたことにあります.
古英語期には,アングロサクソン人が用いていた本来の英単語 ask だけで,一般的な「尋ねる」の意味がおよそまかなわれていました.しかし,1066 年のノルマン征服(フランス北部のノルマン人がイングランドを征服した事件)の余波により,支配層の言語となったフランス語から inquire という語が英語に流入しました.さらに初期近代英語期に入ると,ルネサンス期を特徴づける古典語への関心の高まりにより,権威あるラテン語から interrogate が持ち込まれました.こうして,文化的香りの高いラテン借用語を頂点とし,その下にノルマン征服を象徴するフランス借用語が位置づけられ,さらにその下に被支配者の言語としての英語本来語が置かれる,ピラミッド風の3層構造が英語語彙において確立したのです.
記事では,他の具体的な例を列挙し,対応する日本語における語彙階層についても触れました.両言語に見られる語彙の階層構造は,各言語の言語接触の歴史の生き証人なのです.過去から現代に至るまで,ことばがいかに社会の影響を受けて変容してきたのかに関心のある方は,ぜひ今回の『英語教育』の連載記事や新刊『なぜさんたんげん』の扉も叩いてみてください.
・ 井上 逸兵・堀田 隆一 「いのほた言語学チャンネル PRESENTS 英語を深める社会言語学・英語史の視点 第5回 「英語と日本語の語彙の3層構造」『英語教育』2026年8月号,大修館書店,2026年7月14日.44--45頁.
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.
人気 YouTube チャンネル「ゆる言語学ラジオ」の最新回で,井上逸兵さん(慶應義塾大学教授)が,先々週と先週に引き続き3度目(最終回)の出演です.堀元さんが熱血教師,井上さんと水野さんが生徒に扮する,驚きの教室コントのシチュエーションで,堀元先生が「いのほた言語学チャンネル」の編集にアドバイスを加えつつ,YouTuber 論を語るという異色の回です.抱腹絶倒の36分ですが,極上の YouTube 制作技術論かつメディア論となっています.動画公開からの初速も著しく,とんでもなく注目されています!
今回の動画を視聴して感じたのは,コントの枠を超えて堀元さんの「YouTube 哲学・技術論」の結晶となっていたということです.その裏で,とりわけ印象深かったのは,井上さんが語った知の流れ方の大変化,ひいては学術とメディアの関係の革命という視点です.井上さんによれば,大学という権威の象徴が民を啓蒙するという20世紀型の中央集権的なスタイルは終わりを告げ,21世紀はアルゴリズム型の分散型社会へと移行しています.学術についても,もはや本や雑誌という媒体だけでは立ちゆかない時代が到来していると,私も考えています.
動画のなかで堀元さんが放った「YouTube は学校じゃねえんだよ」という言葉は,本質を突いています.YouTube には視聴維持率の戦いがあるけれども,授業にはそれがありません,最初の数秒で引きつけ,1文字でも無駄な情報を削り,スマホの画面で省略されない短いタイトルに引きのある情報を詰め込む --- この「手前に引きのある情報をもってくる」という徹底的な技術論は,大学教員が必ずしも得意とするわけではないウケる発信の難しさを浮き彫りにしています.
今回のゆる言語学ラジオ回で,大学教授が「もっとおもしろくしたい」「YouTuber として数字を出したい」とプロのアドバイスを真摯に仰ぐ姿勢は,きわめて珍しいことです.研究者からの YouTube 等の新メディアでの発信が当たり前になってくる時代は,まだ数年先のことかもしれませんが,間違いなく到来するだろうと思っています.
井上・堀田は職業 YouTuber ではありません.動画内で堀元さんが「YouTuber は怒りと憎しみを食って大きくなる生き物だ」「視聴者を騙せ」と述べているような方向性を追い求める生き方は不可能です.私たちが目指しているのは,学問の魅力で世の中の人々の知的好奇心を刺激することです.プロ YouTuber のアドバイスはありがたくちょうだいしつつ,基本は学問のおもしろさを元気に長く伝えていく継続性こそが大事なのだろうと,改めて認識した次第です.
「ゆる言語学ラジオ」のお二方には,言語学という分野をここまで盛り上げ,さらに私たちを収録にお呼びいただいた旨,改めて深く感謝します.抱腹絶倒のコントの裏にある YouTuber 論を,ぜひ皆さんも視聴して味わってみてください.

去る6月10日に刊行されて以来,熱い盛り上がりを見せている新刊『英語語源で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』(NHK出版新書,通称『なぜさんたんげん』)ですが,リアル書店での発見報告を募る「なぜさんたんげん目撃マップ」企画が,連日目を見張る勢いで進展しています.全国の読者・応援者の方々が日々寄せてくださる草の根の目撃情報には,著者として感謝に堪えません.なかには書店さんの許可を得て,素晴らしい書棚の写真を撮ってくださる方も少なからずいらっしゃり,地図を開いてピンを立てるたびに胸が熱くなります.
さらに心強いことに,NHK出版の営業の皆さんも,全国の書店訪問の最前線から書棚の写真をお送りくださっています.応援読者さん×全国の書店さん×NHK出版営業さん,という3者の熱量が噛み合った結果,昨晩時点の集計で,全国津々浦々の書店に計93本ものピンが立つに至りました.100本の大台も見えてきましたね.
ここで目撃マップの凡例(ピンの色)を整理しておきましょう.
・ 赤ピン:書棚写真あり(有志の皆さんによる書店さんの許可を得ての写真撮影あり)
・ 青ピン:書棚写真なし(テキストのみのご報告のケース,あるいは私が写真をアップできていないケース)
・ 茶ピン:NHK出版営業さんが回られた書店さん(写真つき)
・ 黄ピン:書店さんご自身による書棚の SNS 広報等
・ 「文」アイコン:本書が入っていると直接・間接に確認できた図書館
さて,先日の記事「#6271. 「なぜさんたんげん目撃マップ」の第1次全国制覇達成!」 ([2026-06-28-1]) でお知らせした地方レベルでの全制覇に続き,目下の目標は第2次全国制覇,すなわち47都道府県完全制覇です.昨晩時点の最新データによれば,全都道府県制覇まで,あと9県というところまで迫っています.その9県は,以下の通りです.
・ 東北:青森県,岩手県,秋田県,山形県
・ 中部:富山県
・ 中国:島根県
・ 九州:佐賀県,熊本県,宮崎県
ぜひ該当する県民の方,あるいはビジネスや旅行でこれらの地を訪れた方は,地元のリアル書店を覗いて情報をお寄せいただけますと幸いです.SNS(主に X)にて #なぜさんたんげん目撃マップ あるいは単に #なぜさんたんげん のハッシュタグを付して街と書店の名前をつぶやいていただくか,あるいは毎朝お届けしている Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」の任意の配信回のコメント欄より,お知らせください.私が必ず捕捉してピンを立てに伺います.
書店での写真撮影に関しましては,「#6257. 「なぜさんたんげん目撃マップ」企画が走り出しています」 ([2026-06-14-1]) でも触れたとおり,必ず事前に書店員さんへ一言お声がけをいただき,そのご指示に従っていただきますようお願いいたします.撮影が難しい状況であれば,テキストのみのご報告でも十分に貴い情報となります.ご協力のほど,よろしくお願い致します.
もちろん,すでに多くのピンが立っている都道府県においても,さらに密度を濃くして地図を面で埋め尽くしていきたいと考えていますので,日本のどこからでも目撃情報をお待ちしています.「英語史をお茶の間に」流通させるためのこの壮大な知的お祭りを,引き続き皆さんとともに楽しんでいければと願っています.
これまでの「目撃マップ」企画に関する関連記事も合わせてご覧ください.
・ 「#6257. 「なぜさんたんげん目撃マップ」企画が走り出しています」 ([2026-06-14-1])
・ 「#6267. 「なぜさんたんげん目撃マップ」へピンが多く立ってきています!」 ([2026-06-24-1])
・ 「#6271. 「なぜさんたんげん目撃マップ」の第1次全国制覇達成!」 ([2026-06-28-1])
・ 「#6275. 「なぜさんたんげん目撃マップ」企画で何をしようとしているのか?」 ([2026-07-02-1])
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.
先月6月10日,NHK出版新書より拙著『英語史で解く英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』が発売されました.おかげさまで大変ご好評をいただいており,全国の書店に並んでおります.毎朝配信している Voicy の 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」 とともに,応援していただけますと幸いです.
さて,本日お届けするのは,少し前の実体験をベースにしたお話です.6月,私はイギリス・スコットランドのアバディーンに滞在していました.日々,北海を望みながらジョギングをしていたのですが,先月6月23日の夕方,ついに悲願であった「北海での初泳ぎ」を敢行しました.その直後にゴーグルを頭にはめた半裸の状態で撮影したミニ動画を,個人 YouTube チャンネルの heltube にアップしたのですが,それが上掲の動画です.
ヨーロッパを襲った熱波の影響で,その日のアバディーンは最高気温が25度まで上がっていました.スコットランドの6月としては珍しい高温です.私はもともと水を見たら泳ぎたくなる性質なのですが,25度ともなれば地元のスコットランド人たちも海に入り始めます.これ幸いとばかりに水着でジョギングに出かけ,念願の北海に入ったした次第です.
しかし,気温は25度とはいえ,水温は別問題でした.北海はとにかく冷たいのです.足を入れた瞬間にその冷たさに圧倒され,えいやと飛び込んでからは,寒さに凍えないよう必死に個人メドレーを始めました.しかしまったく体は温まらず,ものの7,8分で完敗して浜に上がってきました.日本の感覚でいえば,秋の海で泳いでいるような冷たさです.
なぜ,これほどまでに冷たい北海に,私はこだわり,泳ぎたかったのか.単なる悪ノリではありません.そこには,英語史研究者としての強い憧れとロマンがありました.一言でいえば,「英語史を育んだのは北海である」という強い意識が私の中にあったからです.
古代や中世において,海とは土地を隔てる障壁ではありません.むしろ道路でした.陸路を作るのにはコストがかかりますし,山賊の危険もあります.しかし,海路・水路は多くの荷物を運べる安全なルートだったのです.今回私が泳いだイギリス東海岸の北海を東へと進むと,スカンジナビア半島の西岸やデンマークへとたどり着きます.そう,かつてこの海を支配していたのはヴァイキング (viking) たちでした.
北欧のヴァイキングたちにとって,北海は地中海や湖のようなものであり,向こう岸にグレートブリテン島があることは百も承知でした.彼らは8世紀半ばから,この北海という道路を渡ってイングランドへ殴り込みをかけ,やがて移住・植民してきました.当時,アングロサクソン人が話していた古英語に対し,同じゲルマン系の北ゲルマン語群に属する古ノルド語 (old_norse) を話すヴァイキングたちが激しい言語接触 (contact) をもたらしたのです.
この濃密な接触の結果,英語の語彙は大量の北欧系単語を受け入れ,文法も簡略化へと向かいました.現代英語のあり方を決定づけた最大の要因の1つが,このヴァイキングの影響です.そして,彼らが通ってきた物理的な通路こそが,まさにこの北海だったのです.
英語史のダイナミズムを数十年学び,その舞台となった北海を目の前にして,泳がないわけにはいきません.さすがに船で渡ることはできませんが,沿岸でちょろちょろと泳ぐことで,英語史の荒波を肌で体感したかったのです.
浜に上がった後,ブヨかノミの類におおいに刺されたのに気付き,3週間近く経った今もまだ足が痒いです.失ったもの(?)もありましたが,英語史研究者として北海を制した(いや,完敗したのですが)喜びのほうが勝っています.
そのような知的な背景をご理解いただいた上で,ゴーグル姿で「なぜ英語の文には主語が必要なのか」を滑稽に語る私の YouTube 動画をご覧いただけますと幸いです.
なお,この北海での水泳にまつわるエピソードや,ヴァイキングが英語に与えた影響については,一昨日の heldio 「#1865. 私が夏とはいえど冷たい北海で泳いだ理由」でもお話ししています.そちらも合わせてお聴きください.
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.
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