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11月1日に公開されたいのほた最新回は「英米の街の「バラ」がバラバラだった! 英語史研究者が解き明かす地名の謎」です.
今回は,久しぶりに井上研究室での収録です.取り上げた話題は,Edinburgh や Peterborough の後半要素として見られる borough 「市,町」(原義は「砦」)です.いのほたでは,かつて through の綴字が後期中英語期に515通り(その後516通り)もあったという話題で多くの方に驚いていただきましたが,今回はその続編ともいえる回です(cf. 「#53. 後期中英語期の through の綴りは515通り」 ([2009-06-20-1]),「#5738. 516番目の through を見つけました」 ([2025-01-11-1])).
borough の歴史的な綴字を辞書で拾い始めたところ,少なくとも80通りを確認できました.一覧は「#6371. 少なく見積もって80通りの綴字 --- borough」 ([2026-10-06-1]) に掲げてあります.掘れば掘るほど出てくるはずなので,あくまで控えめな数字です.
この語に関心を寄せたきっかけは,1年間の在外研究の後半に,イギリスやアイルランドを車で旅したことにあります.道路標識や地図で地名を眺め続けていると,同じ語が地域によって違う姿で現われることに否応なく気づかされます.スコットランドでは Edinburgh のように -burgh,イングランドでは Peterborough, Scarborough のように -borough と綴られるのが普通です.発音はほぼ同じなのに,綴字が南北で分かれているのです.初期近代にいったん1つの綴字に落ち着きかけたものの,結局は南北で好みが分かれて現在に至ります.北上していくと標識の綴字が変わり,「別の国に入ったな」と実感できるというわけです.標識の綴字については「#6372. 道路標識における Peterborough の省略綴字」 ([2026-10-07-1]) もどうぞ.
大西洋を渡ると,同語源の -burg が現われます.Gettysburg などがその例です.米国では1890年に設立された地名に関する合衆国委員会が,-burgh の語末の <h> を落として -burg に揃えようとしましたが,Pittsburgh だけは市民が伝統的な綴字を手放さず,1911年に委員会が折れたのでした.その結果,米国で最もよく綴り間違えられる地名になってしまったというオチです(「#6375. Pittsburgh か Pittsburg か --- 地名の綴字論争」 ([2026-10-10-1]) を参照).
発音は同じでも,1文字,2文字の違いに人々はこだわり,そこに土地のアイデンティティを託します.綴字は目に見えるだけに,差異化の道具として格好なのです.私はもともと形態論への関心から綴字研究に入ったのですが,こうした綴字の差異化を追いかけるうちに,いつの間にか社会言語学の側へと引き寄せられてきました.社会言語学者である井上さんと話が噛み合うのも,そのためかもしれません(cf. 「#3928. スペリングの歴史社会言語学的側面」 ([2020-01-28-1])).
動画の後半では,井上さんが日本語の地名表記から次々と例を挙げてくださいました.「市ヶ谷」の「ヶ」の有無,ひらがなの「さいたま市」,そして東京都大田区の「大田」が「太田」でない理由など.日本語のほうが表記の選択肢が多いぶん,地名のいじりがいがありそうです.
なお,borough と同じ印欧語根にさかのぼる語として barrow 「塚,丘」があることは,khelf の寺澤志帆さんによる連載「『英語語源辞典』でたどる英語綴字史」の「358. 3つのbarrow ―古英語では違う語形―」でも触れられていますね.また,地名や人名をめぐっては,小河舜さんらと進めている「名前プロジェクト」もあり,近く論文集の形で成果をお届けできる見込みです.
皆さんの身の回りにも,1文字違いで大違いの地名がきっと見つかるはずですね.
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最終更新時間: 2026-11-08 05:00
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