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hellog〜英語史ブログ / 2026-10-13

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2026-10-13 Tue

■ #6378. ハドリアヌスの長城と英語史 [hadrians_wall][roman_britain][tabihel][tabihel_scotland][helwa][history][scots]


A grassy plain where Hadrian's Wall once stood



 1900年前の壁は,英語をイングランドに閉じ込めることになる壁だったのだろうか? 今では何もない草原に立って,そんなことを考えてみた.
 「旅hel」 (tabihel) シリーズのスコットランド編より.この8月,イングランドからスコットランドへと北上するドライブの途中で(cf. 「#6322. スコットランドの入り口,駆け落ち婚の名所 Gretna Green のトイレ」 ([2026-08-18-1])),Hadrian's Wall (ハドリアヌスの長城)の跡地の1つに立ち寄った.たどり着く直前の最後のストレッチは,ひなびた田舎道である.1マイルほど真っ直ぐに続く道には車も人影もなく,時速100キロ以上で走れてしまうほどだった.着いたところは,何もない丘陵地.ここが壁の跡地の1つだという.夕方だったので visitor centre はすでに閉まっていた.すれ違ったのは,少数のハイカーのみ.ビデオを回し,写真を撮った.上の写真には壁の痕跡すら見えない.かつて壁があったはずの平原が広がっているだけだ.このひなびた何もない感じが哀愁を誘う.
 ハドリアヌスの長城は,ローマ皇帝 Hadrian の命により,122年頃から建設が始まった防壁である.ブリテン島の東の Tyne 川河口付近から西の Solway 湾まで,島を横断するように約120キロにわたって築かれた.ローマ軍のブリテン島北方への進出は,おおむねこのラインで止まったことになる(その後,一時はさらに北に Antonine Wall が築かれたが,長くは維持されなかった).ローマン・ブリテン (roman_britain) の概略については「#3786. ローマン・ブリテンの略年表と地図」 ([2019-09-08-1]) を参照されたい.
 このことは,後の英語史との関係でも興味深い.長城は現在のイングランドとスコットランドの国境線にほど近いところを走っており,南側の影響力が,この地点より北側へは及びにくかったことは,その後の1800年の歴史が証明している.ここから北はピクト人の地であり,後のスコットランドの領域である.5世紀以降に大陸から渡ってきたアングロサクソン人の言語,すなわち英語は,やがてこの線を越えて北へも入り込みはした.しかし,そこで発達したのは,結局のところ English ではなく Scots だった.Scots と English の関係については「#6216. Scots は English とは別の言語なのか,あるいは1方言か」 ([2026-05-04-1]) や「#6205. Scots の歴史に注目すべき理由」 ([2026-04-23-1]) で取り上げた通りである.
 もちろん,ローマ人が去ってから英語がブリテン島にやってくるまでには時間差があり,長城そのものが英語の北進を物理的に阻んだわけではない.それでも,約1900年前の侵略の北限と,現在のブリテン島における English と Scots の分布とが,おおよそ重なり合って見えるのは興味深い.地理の制約,政治の境界,そして言語の境界が,長い時間をかけて同じあたりに落ち着いてきたかのようだ.
 何もない平原だが,ここがかつて国境だったのか.いや,今でも何らかの境なのだな,と思いながら平原を眺めた.
 このテーマについては,3年前に helwa (helwa) でも語っていたことを思い出した.「【英語史の輪 #36】ハドリアヌスの長城と英語史」(2023年10月3日配信)もあわせてどうぞ.

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最終更新時間: 2026-10-13 05:00

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