
*
月刊誌『英語教育』(大修館書店)にて,同僚の井上逸兵さん(慶應義塾大学教授)とともに「いのほた言語学チャンネル PRESENTS 英語を深める社会言語学・英語史の視点」を連載しています.10月14日発売の11月号に,第8回記事「英語は1つではない ―― 相手と場面で変わる「話し方」」が掲載されました.今回のメイン執筆者は井上逸兵さんです.
電話に出た瞬間,相手が家族から上司に変わった途端に声のトーンまで変わる,というだれもが経験する現象を入り口に,井上さんは,「英語が話せるようになりたい」というときの「英語」が,まるで1種類しかないかのように扱われがちであることに注意を促しています.私たちは日本語を話すときでさえ,先生と話すとき,友人と話すとき,家族と話すときとで,語彙も文の長さも声の高さも巧みに使い分けています(社会言語学でいう style-shifting).ところが外国語となると,教科書で覚えた1つの話し方をどの相手にも使い続けてしまい,妙に浮いてしまうことが起こりやすいという指摘には膝を打ちました.
議論の軸となるのは,2つの社会言語学の理論です.1つは Howard Giles らのコミュニケーション適応理論(Communication Accommodation Theory.cf. 「#1935. accommodation theory」 ([2014-08-14-1]))で,相手との距離を縮めたいときにはことばを相手に近づけ(convergence),逆に距離を置きたいときにはあえて離す(divergence)という話し方の調整を説明するものです.もう1つは Allan Bell のオーディエンス・デザイン(audience_design.cf. 「#1934. audience design」 ([2014-08-13-1]))で,直接話しかけている相手だけでなく,傍らで聞いている第3者の存在までもが話し方を左右し得ることを教えてくれます.
「英語には日本語のような敬語がないのではないか」という誤解にも言及があります.英語にも Could you...? や Would you mind...? のような丁寧表現はありますが,それだけではありません.声の高さ・速さ・強さ・間の取り方といったプロソディ (prosody) が丁寧さの重要な担い手になっている点は,日本語母語話者にはかえって気づきにくい盲点でしょう.「英語ができる」とは,1種類の正しい英語をいつも同じように出せることではなく,相手や場面を見ながら少しずつことばを動かしていける能力そのものだ,と締めくくられています.
記事の末尾には,恒例の相方からの一言として,私もコメントしています.
ぜひ全国の書店やオンライン書店にて,『英語教育』11月号を手にとっていただければと思います.
・ 井上 逸兵・堀田 隆一 「いのほた言語学チャンネル PRESENTS 英語を深める社会言語学・英語史の視点 第8回 「英語は1つではない ―― 相手と場面で変わる「話し方」」『英語教育』2026年11月号,大修館書店,2026年10月14日.60--61頁.
Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow